第12回 更年期と閉経後にホットフラッシュが起こるメカニズム
(1)月経が起こっている時期の脳—下垂体—卵巣系の働きは?
本ホームページの診療案内でお話したように、のぼせ, ほてり、発汗は更年期症状のうちで最も有名なものです。これらの症状は、あわせてホットフラッシュ(HF)とも言われます。HFは更年期だけでなく、閉経後、かなりの年数を経ていても起こります。
HFが起こるメカニズムについて、今回と次回の2回に分けてお話しすることにします。その1回目は、月経周期がきちんと起こっている時、脳(視床下部)、下垂体、卵巣、という3つの部分が、どのように働いているかの説明に当てます。それによって、卵巣の働きが終焉してしまった後、つまり閉経後の、脳—下垂体系の働きについての理解が得られると思うからです。
1. まず、大まかに女性の生殖機能について(図1)
女性では、思春期より閉経期に至る期間、妊娠、授乳期を除いて、子宮内膜の機能層が周期的に崩壊して基底層から脱落し、同時に低凝固性の血液や子宮腺の分泌液を混じて膣から排泄されます。これを月経と呼び、約28日周期で繰り返されます。
子宮内膜のこれらの変化は、卵巣に起こる形態上・機能上の周期的変化を反映しています。そして、卵巣の周期的活動は、脳—下垂体—卵巣系を結ぶ情報伝達物質、つまり、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)、性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン=LH(黄体形成ホルモン), FSH(卵胞刺激ホルモン)、卵巣ホルモン(エストロジェン、プロジェステロン)の相互作用によって調節されているのです。
【シンプル生理学改定第8版、南江堂】
2. とくに、女性における性腺刺激ホルモンの分泌パターンについて(図2)
性腺刺激ホルモンの下垂体からの分泌は、性、性周期の時期、卵巣摘除、妊娠—授乳などで著しく変化します。成人女性では、性腺刺激ホルモン(LHとFSH)は下垂体前葉から2つの様式で分泌されています。1つは基礎分泌(パルス状分泌と呼ばれます)、もう一つは排卵性分泌(サージ状分泌と呼ばれます)です。
卵胞期と黄体期に分泌される性腺刺激ホルモンは極めて少量で、これが基礎分泌と呼ばれる様式です。頻回の採血によって詳しく調べると、その分泌は実際には1〜4時間間隔にパルス状に行われています。この基礎分泌によって成熟した卵胞は、排卵期には、大量に、サージ状(と表現されます)に分泌されるLHとFSHによって排卵を起こします。
【シンプル生理学改定第8版、南江堂】
3. キスペプチン神経細胞が組み込まれた脳—下垂体前葉—卵巣系(図3)
GnRH分泌は、エストロジェンの負フイードバック作用と正フイードバック作用によって、それぞれGnRHパルス発生器と サージ発生器が働いて、パルス状分泌とサージ状分泌となります。ただし、GnRH神経細胞がエストロジェン受容体を持っていないことがわかっていましたので、近年、キスペプチン神経細胞とGnRH細胞系がGnRHパルス発生器とサージ発生器を形成し、それぞれエストロジェンの負フイードバックと正フイードバック作用を受けて機能することが明らかにされました。
【シンプル生理学改定第8版、南江堂】
文献
この回と次回の講座では、院長、田中冨久子が、貴邑冨久子として根来英雄と共著で1988年以来、南江堂から出版してきた医療系学生用教科書「シンプル生理学」の図版を多く用いています。南江堂の許可を得て引用させていただきました。