院長のご挨拶

院長 田中冨久子

院長 田中冨久子

旧年もコロナ禍の中で暮れ、そして第6波の予感に恐怖を感じつつ新年を迎えています。
もしかしたら今年もコロナウイルスと戦いながらの診療となるかもしれませんが、皆様のご協力をお願いしながら、頑張ろうと思っています。よろしくお願いします。

旧年は、女性ホルモン補充療法(HRT)がコロナウイルス戦略に有利に働く可能性を新年のご挨拶で述べました。
本年は、適切に行われているHRTは、決して1)発がんを増加させることはなく、逆に2)がんによる死亡を減少させる、ということをお話ししようと思います。
こうして、閉経後の女性にとってHRTが生涯にわたり健康に生きていく上で是非とも必要な治療であることを説明し、新年のご挨拶に換えたいと思います。

1) HRTと、がん発症率の関係
HRTの乳がん発症リスクは、生活習慣によるリスクの上昇と同等かそれ以下、ということがわかっています。

HRTのデメリットへの誤解が生まれた背景にあるのが、2001年にアメリカで発表された研究報告で、HRTを受けていない場合、1年で1000人中3人に乳がんが発症したのに対し、受けた場合は1年で1000人中3.8人に発症しました。でも、この増加は、飲酒や喫煙、肥満などによるがん発症の上昇と同等かそれ以下に過ぎないことが分かりました。また、子宮体がんについては、黄体ホルモンを併用することで、発症が抑えられ、むしろ減少することが分かっています。

乳がんと子宮体がんがこれまで発症率が増加すると誤解されてきたがんですが、他方で近年注目されてきたHRTとその他のがん発症率の関係があります。
それは食道がん、胃がん、大腸がん、そして、肺がんですが、HRTはこれらの発症を減少させることが分かってきているのです。つまり、大きなメリットがあるということです。

2) HRTと、がん死亡数の関係
日本における2019年の部位別がん死亡数の順位は、女性においては、1位;大腸がん、2位;肺がん、3位;膵臓がん、4位;胃がん、5位;乳がん、です

(国立がん研究センター)。この結果に、HRTを受けていた女性のデータが大きな部分を占めていたとは考えられませんので(なぜなら、HRTを受けている日本女性はたったの1.7%です)、明らかなことは、HRTは女性で死亡数の高い大腸がん、肺がん、胃がんを全て減少させるということです。
付け加えるならば、がん罹患数では、乳がんは順位1、子宮がんは順位5ですが、乳がんも子宮がんも死亡数順位では高いものではありません(上述)。
これは、たとえ乳がん、子宮がんに罹患してもがん治療の進歩により死に至る数は少ないことを示していると思われます。

3) HRTと、がんの関係について
以上をまとめますと、閉経後の女性がHRTを受けることは、がんの発症や、がんによる死亡を減少させる、ということが言えると思われます。