更年期男性外来ご案内

 男性の精巣から分泌される男性ホルモン(とくにテストステロン)の低下による心身の不調は「男性の更年期障害」と呼ばれます。主な症状は倦怠感や気分の変調、睡眠障害、性欲の低下など、また、ほてりやめまいなどもあります。さらに筋肉の減少や内臓脂肪の増加、骨粗鬆症なども引き起します。日本人の患者は600万人と推定されています。本院は、このような男性更年期障害を、現在、最良とされる男性ホルモン補充療法によって治療します。

性の更年期とは?

 男性に更年期があるかどうかは長いあいだ論争の的でした。その原因の一つは、男性では女性における「閉経」のように生殖機能の終りを示す誰の目にも明らかな現象が見られないこと、しかし、それにも拘らず、中年期以降の男性では勃起障害を中心とする性機能低下症、さらにはうつ症状や集中力低下などの精神症状、ほてり/発汗などの身体症状が現れることが認識されているからです。

 近年、これらの症状を併せて男性更年期障害とする考え方が確立され、日本泌尿器科学会がその病態を、医学的に「加齢男性性腺機能低下症候群(略して、LOH症候群)」と呼ぶことを提唱しました。そして、この症候群のキーワードは、男性ホルモン(とくにテストステロン)低下、加齢、QOL低下、多臓器機能障害であると定義し、男性ホルモン補充によってこれらの予防をはかって健康な長命が獲得できると呼びかけています。

性一生の男性ホルモンの変動

 それでは、閉経がないのに男性に更年期障害が起こる原因は何でしょうか。その第一は、加齢や動脈硬化によって精巣機能が衰え、血液中の男性ホルモン、とくにテストステロンという男性ホルモンの濃度の低下です。わけても、遊離型テストステロン(フリーテストステロン)という、タンパク質に結合していないタイプが重要で、その変動を図1に示します。タンパク質に結合している総テストステロンの血中濃度は加齢による低下が極めて少ないことが特徴です。そして、「LOH症候群診療ガイドライン」では遊離型テストステロンの値が8.5 pg/mlを正常下限値としました。

 血中テストステロンの濃度は、加齢による精巣機能の低下のほか、ストレスによって脳下垂体からの性腺刺激ホルモンの分泌が抑えられても低下します。中年期の男性は社会生活の中でのストレスに直面しています。そのために精巣機能の低下が起こりやすくなりますので、多くの男性では、加齢、ストレス両方の原因でテストステロンが低下すると考えたほうが良いと考えられます。

エストロゲン

性の更年期症状

 表1に、男性が自覚する更年期症状をしめしてあります。精神的症状、身体症状にわけてあります。本ホームページの更年期女性外来に示してある女性の更年期症状と比べてみて、似た症状の多いことにおどろかされるのではないでしょうか。

 同時に、「LOH症候群診療ガイドライン」にまとめられているLOH症候群の症状も示しておきます(表2)。記憶、睡眠なども含めた自覚症状の他に、内臓脂肪の増加、骨減少などもあり、脳を含めた体全体の変化が起こってしまうことが分かります。女性ホルモン(エストロジェン)もそうですが、男性ホルモン(テストステロン)の作用は多岐にわたっているのです。

精神的症状・身体的症状

療方針

 初診時に、「問診表」と、「AMS」,「SDS」というチェックシートを用い、更年期症状の程度と、「うつ病」を併発していないか、などを判定します。

 一方で、身長、体重、血圧測定、尿検査、血液検査による貧血の有無、肝機能、脂質代謝、血糖、HbA1c、前立腺腫瘍マーカー(PSA)の測定、骨密度などの測定を行ないます。最も重要な血液における検査は、総テストステロン、遊離型テストステロン、性腺刺激ホルモンのLHおよび FSHです。

 最終的には、遊離型テストステロン濃度を最も重要視して、この値が8.5 pg/ml未満の場合にはLOH 症候群の可能性が高いと判断します。

性の更年期障害の治療

 「LOH症候群診療ガイドライン」にしたがって行ないます。

 更年期症状を示した40歳以上の男性で、遊離型テストステロン値が8.5 pg/ml以下のLOH 症候群と判断した場合は、男性ホルモン補充療法(アンドロジェン補充療法=ART)の施行を第一に行います。上記のような男性で、8.5 pg/ml以上11.8 pg/ml未満の場合は低下傾向群として、補充療法は選択肢の一つとし、11.8 pg/ml以上の場合は、症状に応じて治療を考慮します。

 なお、ARTの除外基準は、前立腺がん、PSAが4.0 mg/ml以上、前立腺肥大症、乳癌、多血症、重度の腎機能不全、重度の高血圧症などです。

性ホルモン(アンドロジェン)補充療法(ATR)

 当院では、ARTは、札幌医大名誉教授の熊本悦郎先生の方法にしたがって行なっています。熊本先生は、男性に更年期のあることの証明と周知に奔走され、かつ男性ホルモン補充療法による治療の有効性を説かれ、現在も城西クリニックでメンズヘルス外来を担当しています。