田中冨久子のホルモン学講座

第10回:ホルモン補充療法の意義
    2013年ホームページのご挨拶から

 この小さなクリニックも開設以来3年目を迎えました。 2年間の女性更年期の医療を通じて、私は、この医療に2つの大きな意義を見いだしました。

 一つ目は、今、更年期にある約50歳の女性たちは、30~40年後に自律した生活を送るためのあらゆる努力をしていただきたい、そのためにこそホルモン補充療法があるのだということです。 今更年期にある女性たちは、閉経からくる諸症状を単に我慢してやり過ごそうとするのではなく、底辺にある女性ホルモンの欠如が続くことで30~40年後に起こるであろう諸障害を予防しようという意識をもつことが大切と思います。その方法としてホルモンの補充療法が重要な位置を占めるのだ、私のクリニックの存在意義もそこにある、という思いを強くしました。 昨年の日本における政治、経済などの混乱によって増々明らかになったのは、今後、高齢化が増幅するにかかわらず社会保障が低下していく可能性です。要介護の人々が増えていく一方で、それをサポートする体制が貧弱になっていくであろうという予測です。私たちはその現実を直視して、できうる限り自律して生きて行く覚悟をもつ必要にせまられています。現在、ご家族の介護をされている方々は、特に、ご自分の将来を不安に思わざるを得ない心境に追い込まれていることと思います。ぜひ、積極的に予防をしていくべきで、このクリニックで行なっているホルモン補充療法もそのための重要な方法です。

 二つ目は、社会で仕事をしている女性たちへの支援です。この人たちの全てとはいいませんが多くの方々は、更年期に至って、つらい諸症状に直面し、仕事の続行に困難を感じ、そのため仕事を辞めようとしたり、本当に辞めてしまう、という現実にあります。そういう女性たちを診ていて、それまで折角積んで来たキャリアをここで終わりにして欲しくないとつくづく思います。更年期の諸症状の的確な治療を受けて、困難を乗り越え、キャリア続行につなげてほしいと思います。 そうでないと、男女共同参画社会の形成を日本において成功させることができません。先進国の中で男女共同参画社会形成が最も遅れているのは日本です。もちろん社会の成熟が遅れている事も原因ですが、各女性が何とか築いていた社会での地位を更年期に至ってすててしまうことも大きな原因と思います。先進国の多くでは、50%以上の女性たちがホルモン補充療法を受けています。こうすることで、社会での仕事を続行していると考えられ、それによって男女共同参画社会が成り立っていると考えられるのです。働いている女性たちの支援を行なうことに私のクリニックの意義があるという認識を強くもつにいたりました。 このような意義をふまえて、今年も頑張りたいと考えています。 それにしても、希望がもてる日本になってくれることを期待せずにはおられません。